東谷 章弘

離散幾何学講座

Higashitani Akihiro

離散幾何学講座

准教授 東谷 章弘 Higashitani Akihiro

離散幾何学講座 東谷 章弘1986年に広島で生まれ、高校卒業まで広島で過ごす。
2005年に大阪大学理学部数学科に入学し、2012年にこの情報基礎数学専攻博士後期課程を修了。
京都産業大学に4年間勤めた後、2019年に大阪大学に着任。

1986年に広島で生まれ、高校卒業まで広島で過ごす。2005年に大阪大学理学部数学科に入学し、2012年にこの情報基礎数学専攻博士後期課程を修了。京都産業大学に4年間勤めた後、2019年に大阪大学に着任。

本専攻教員メンバーで、唯一この情報基礎数学専攻修了生ですので、最初に自己紹介も兼ねて、本専攻で学んできたことや学生・ポスドク時代の思い出を中心にお話しさせてください。読者が本専攻に対してどのようなイメージを持っているかは分かりませんが、「教員の中にはこんな人もいる」と知ってもらいたく、書きました。もしよろしければ少しだけお付き合いください。研究については、研究の変遷にて詳しく述べることにします。

学部生~学位取得(2008年4月~2012年9月)

高校卒業まで広島市内で過ごした後、2005年に阪大理学部数学科に入学。月並みですが、「学部生の頃にもっと勉強しておけばよかった」といまだに感じます。学部生の頃は、日々の授業を含め楽しく過ごしましたが、数学に対して真剣に向き合えていなかった気がします。実際、授業以外で数学に取り組んだことはほとんどありませんでした。一方で、新しい概念を学び、その美しさに魅了されるにつれ、もっと数学を続けたいと思うようになりました。幼少期より好きで得意だった数学をずっと続けていたいという安直な思いから、あまり深く考えずに、入学当初から博士後期課程進学を視野に入れていました。

なんとなく過ごした学部生時代も最初の3年間だけでした。阪大数学科では4年生からゼミに配属されますが、4年生のゼミでは

日比孝之著『可換代数と組合せ論』(シュプリンガー東京、1995年)

を輪読。この教科書で、格子凸多面体論の基礎を学びました。半年余りで読破した後、格子凸多面体のEhrhart多項式の特徴付け問題として、正規化体積が3以下の場合の特徴付けに取り組み、初めての共著論文

T. Hibi, A. Higashitani and Y. Nagazawa, “Ehrhart polynomials of convex polytopes with small volumes”, European J. Combin. 32 (2011) 262-232

が完成しました(2009年3月)。これが私の研究の原点です。昨今、初論文を執筆する年齢が年々早くなっているように思います。博士後期課程進学を視野に入れている読者にとって、4年生のうちに一生取り組める良い研究テーマを見つけ、論文を執筆できるかどうかが重要かもしれません。

2009年4月、博士前期課程に進学。M1の1年間はきっと、研究者人生の中で最も勉強と研究に尽力した時期だと思います。博士後期課程進学を視野に入れていたので、格子凸多面体論(特にEhrhart理論)を一生の研究テーマにするため、その基礎固めに努めました。一般的に、M1はまだまだ教科書や論文を読みながら勉強しつつ研究テーマを模索する時期かもしれませんが、私は論文を書きながら、つまり具体的な問題を設定してそれを解きながら勉強していきました。研究対象や関連する概念に対する基礎的知識を完璧に理解できていれば言うことありませんが、そうでなかったとしても、研究を進めながら必要に応じて(必要に迫られて)一から勉強していくことで力がついていくはずです。そのようにしてM1を過ごし、結果として、4本の論文(共著3本、単著1本)を書きました。博士後期課程に進む上で、DC1やDC2に採択されるかどうかは大きな意味を持ちます。もちろんその限りではありませんが、少なくともデメリットはほぼありませんし、やはり経済的余裕ができるという利点は大きいです。DC1やDC2を獲得するには、M1から自立して研究を進める気概が必要です。

2011年4月に博士後期課程に進学。幸い、DC1にも採択されました。博士後期課程でも攻めの姿勢で従来の研究を続け、Ehrhart多項式の特徴付け問題の他、Ehrhart多項式の根の分布、格子凸多面体の正規性など、格子凸多面体の組合せ論に関する様々な課題に従事しました。そして2012年9月、学位を取得しました。

ポスドク・京都産業大学時代(2012年10月~2019年3月)

研究者として生き残るためには、一つのテーマ(私の場合、格子凸多面体のEhrhart理論)に固執しすぎていては限界が来ると考え、ポスドク以降は新たな土台を見出すため、従来の研究も継続しつつ、新たな研究テーマを模索しました。

学位取得後の2012年10月から2014年3月は引き続き阪大にて、2014年4月から2015年3月は京大にてポスドク時代を過ごしました。京大での1年間は、きっと後にも先にも人生で最も楽しく充実した期間だったと思います。運よく獲得できた潤沢な研究費を有効活用し、様々な研究者を訪ね、研究滞在しました。自分の研究の幅を広げるため、また将来職に就けた際にも継続して研究を続けられる仲間を増やすため、こちらから押しかける形で、共同研究を行うために数週間滞在させてもらいました。


photo_1:2014年9月、Stockholm UniversityにてBenjamin Nill氏と。


photo_2:2015年2月、Imperial College LondonにてAlexander Kasprzyk氏と。


photo_3:2015年3月、Universität TübingenにてJohannes Hofscheier氏と。

2015年4月に京都産業大学理学部に助教として着任。研究者の世界は最初に職に就くまでが大変ですが、幸いにも京産大に採用していただけました。京産大では1年目から様々な仕事を任され、しかも着任直後の9月には日本数学会秋季分科会の開催もあり、いわゆる“若いうちは雑用が少ない”といった雰囲気ではありませんでした。それでも京産大での生活は充実していて、初めての就職先が京産大で良かったと心から思います。特に、京産大での教育経験は、自身が学ぶものも非常に多かったです。私が京産大に着任して以降、京産大から本専攻に進学する学生が毎年出ており、本専攻でさらなる成長を遂げて修了していったようです。今後もぜひ京産大からたくさんの学生が本専攻に進学してもらえると嬉しいです。もちろん他大学からも大歓迎。京産大在職中、夏休みなどの長期休暇中には頻繁に海外出張しました。特に、Alexander Kasprzyk氏のもとへはポスドク時代からほぼ毎年訪ねており、密な研究打ち合わせを重ねてきました。そのうちの1回は、格子凸多面体の変異理論に関するレクチャーと議論に費やされました。詳しくは後述しますが、ここで格子凸多面体の変異理論を学べたことが今後の研究に多大な影響を及ぼします。

阪大に出戻り(2019年4月~)

2019年4月、縁あって本専攻に戻ってくることが出来ました。阪大に戻ってからは研究のペースがますます向上し、研究の幅もさらに広がります。この頃から、自身の研究を周辺分野へ応用することにも興味を持ちます。異なる研究背景を持つ研究者と互いの知識を持ち寄ることで、その共通部分で斬新な着想に至り、新たに問題が解けるようになったのです。その成功例の一部は後述します。

そして2020年、コロナ禍に突入してしまいます。コロナ禍になって良かったことなど、悪かったことの1万分の1未満ですが、唯一良かったこととして挙げられるのが『リモートツールの浸透』でしょう。コロナ禍においては、オンラインによる集会や打ち合わせが主流になり、自宅からでも海外のセミナーに気軽に参加できるようになりました。一方で、対面で話す機会は激減。2022年3月現在、少しずつ対面での集会や打ち合わせの機会が戻ってきましたが、オンラインとの“温度差”は歴然です。もちろん好みの問題ですが、ポスドク時代から毎年複数の海外の研究者を尋ねて打ち合わせを重ねてきた自分にとっては、一つの大きな黒板を前に共同研究者と“直接”議論する時間は何ものにも替えがたいと感じます。2022年度からは海外出張を再開する予定です。まだまだ貪欲に研究の幅を広げつつ、格子凸多面体論をさらに探究していくつもりです。

研究の変遷

頂点の座標が全て整数であるような凸多面体のことを格子凸多面体と言います。私の研究の軸の一つは『格子凸多面体論』です。学部4年のゼミでは格子凸多面体のEhrhart多項式を研究する分野である『Ehrhart理論』の基礎について学びました。以下、私が取り組んできた、または、今後も取り組んでいく研究課題の一部を具体的に挙げてみます。

●格子凸多面体のEhrhart多項式の特徴付け

学部4年の頃から現在、そして今後も取り組んでいく課題が「どのような多項式が格子凸多面体のEhrhart多項式になり得るか?」というものです。この手の問題は低次元から考察するのが常ですが、2次元以下は既知、3次元になった途端状況が複雑になり完全解決は極めて困難となります。そこで、次元以外の不変量に注目するわけです。その一つが「正規化体積」(ユークリッド体積×次元の階乗)です。上記の私の初論文は、正規化体積が3以下の場合の特徴付け、修士の頃には正規化体積4の場合、博士の頃には正規化体積5or7(素数であることが重要)の単体の場合など、着々と研究を進めてきました。他にも「次数」と呼ばれる格子凸多面体の不変量に注目した特徴付けやその一般化を考えるなど、様々な角度から特徴付け問題に取り組み続けています。

●格子凸多面体のEhrhart多項式の根の分布

格子凸多面体のEhrhart多項式の根の分布の研究にも尽力しました。特に、反射的凸多面体のEhrhart多項式は、複素数平面上においてその根がRe(z)= -1/2という直線(Re(z)は複素数zの実部)に関して対称に分布するという特殊な性質を持っています。具体的な問題として「どのような反射的凸多面体が、Ehrhart多項式の根の実部が全て-1/2になるか?」というものが考えられますが、この問題を私は修士・博士の頃に熱心に研究しました。そして近年、“interlacing多項式”の理論がEhrhart理論にも適用されるようになり、私が学生だった頃には未解決だった問いに答えが出せるようになってきました。

●格子凸多面体の変異理論

現在の私の研究テーマの核となっているのが、格子凸多面体の変異(mutation)の理論です。これは、2012年頃に(Kasprzyk氏を含む)イギリスの研究グループが、Fano多様体のミラー対称性の文脈で導入した概念です。京産大在職中にKasprzyk氏を訪ねた際、彼からこの理論を学びました。昨今、クラスター代数の理論の発展に伴い、変異理論はあらゆる分野に現れる極めて重要なものと言えますが、格子凸多面体の変異理論もその一部です。雑に言うと、Fano多様体のミラー対称性の観点で現れる変異の概念を格子凸多面体に適用して考案されたのが、格子凸多面体の変異理論です。格子凸多面体は、トーリック(Fano)多様体の代数幾何的性質を調べるために重宝されてきましたが、格子凸多面体の変異の概念が誕生したことにより、格子凸多面体論を経由することで代数幾何的性質を調べることが出来る範囲が、トーリック(Fano)多様体から“トーリック(Fano)多様体にqG-deformationできるもの”まで格段に広がると期待されるようになりました。この研究はまだ始まって間もなく、解決すべき重要な問題も数多くある宝の山であると確信しています。


Kasprzyk氏のレクチャーのノートの一部。

●グラスマン多様体のトーリック退化

格子凸多面体の変異理論を適用することで得られた成功例の一つが、coherent matching fieldによるグラスマン多様体の新たなトーリック退化の構成です。グラスマン多様体のトーリック退化の構成やそれらの間の関係については、多様な分野が交差する研究テーマであり、多くの研究者が盛んに研究しています。グラスマン多様体のトーリック退化は様々な手法で構成できますが、その一つがPlücker代数のcoherent matching fieldを用いたものです。Mohammadi氏とその学生のClarke氏との共同研究において、coherent matching fieldに対応する格子凸多面体を変異で繋げることにより、それらから得られるトーリック退化の間の関係を明らかにしました。さらに、その過程で新たなトーリック退化を構成することにも成功しました。それらの成果は共著論文

O. Clarke, A. Higashitani and F. Mohammadi, “Combinatorial Mutations and Block Diagonal Polytopes”, Collecta. Math., to appear

として掲載決定済みです。また、2022年度6月から、Clarke氏が獲得した「外国人特別研究員」のプログラムにより半年間阪大に滞在するので、上記の論文の続編としての共同研究を行う予定です。


2019年12月、University of BristolにてFatemeh Mohammadi氏(中央)Oliver Clarke氏(右)と。

上記ではあまり触れませんでしたが、私の研究のもう一つの大きな軸である『組合せ論的可換環論』にも熱心に取り組んできています。さらに、格子凸多面体や組合せ論的可換環論にさほど関係のない研究も行ってきています。研究の進め方のスタンスは人によって当然違うわけですが、研究を進めるにおいて、知識と技の“幅”と“深さ”の両面が必要不可欠だと私は考えています。分野にとらわれず多方面にアンテナを張り、新たな知識や技を習得し続けることは非常に有益です。一方で、ある一点(私の場合は、格子凸多面体のEhrhart多項式の特徴付け)については「世界中の誰にも負けない」と言える知識の深さとテクニックへの自信も、研究者にとって重要です。ただの物知りでもマニアでもなく、そのバランスが必要だと考えています。

学生とのゼミについて

学生にゼミでどんなテーマに取り組んでもらうかは、基本的には各学生に任せるつもりですが、そのとき私が興味を持っている話題を一緒に勉強していくのも一つの形です。私の主な研究テーマである格子凸多面体論や組合せ論的可換環論はもちろん、周辺分野の話題も研究テーマになりえます。参考までに、これまで私が担当してきた、または、現在担当している学生の大まかな研究テーマを挙げておきます。

・格子凸多面体に付随するトーリック環の因子類群について

・グラフに付随するイデアルの環論的性質について

・反射的凸多面体のEhrhart多項式とその一般化の根の分布について

・グラフに付随する格子凸多面体の三角形分割のshellable性について

・新たなcoherent matching fieldによるグラスマン多様体のトーリック退化の構成

・非特異Fano凸多面体に付随するコホモロジー環の同型判定(トーリックFano多様体のコホモロジー剛性問題)

・グラフの隣接行列やSeidel行列の固有値について

・次数付き可換代数のGorenstein性およびその一般化

もちろんこれらの限りではありません。何か新しいことに一緒に取り組みたいと考えている学生、大歓迎です。

大学院進学を検討している読者へ

具体的な研究テーマや挑戦したい未解決問題があるなど明確な動機を持つ読者は、ぜひ大学院でその種を育てください。しかし、当時の私のように、具体的な目標がない読者もいるかもしれません。それでも、ぜひ大学院進学を前向きに考えてください。もちろんそのためには相応の覚悟が必要かもしれません。これまでに偉大な先人たちによって整備された理論を学ぶ“勉強”と、未開の地へと足を踏み入れ自ら道を切り開いて理論を構築する“研究”は、全くの別物です。しかし研究を続けるためには、未開の地へと足を踏み入れてみたいという好奇心と探究心が不可欠で、その有り余る好奇心と探究心が道を切り開いてくれることもあります。そのような情熱を持って、ぜひ大学院で深い学びを体験してもらえればと思います。私がEhrhart理論に魅せられ、格子凸多面体の理論へと誘われ、研究に没入していったように、何か深い興味を持てる対象に出会い、勉強・研究に取り組んでもらいたいです。そのような経験は非常に貴重で、大学院修了後のどんな進路においてもその後の人生の糧となるはずです。

意欲にあふれた学生を歓迎します。一緒に新境地を開拓しましょう。

略歴

  • 2012年 大阪大学 博士(理学)
  • 2011年 大阪大学 日本学術振興会特別研究員 (DC1)
  • 2012年 大阪大学 日本学術振興会特別研究員(PD)
  • 2014年 京都大学 日本学術振興会特別研究員(SPD)
  • 2015年 京都産業大学 助教
  • 2017年 京都産業大学 准教授
  • 2019年 大阪大学 准教授

連絡先

  • E-mail : higashitani@ist.
  • Tel : 吹5899 (06-6105-XXXX)
  • website

4ケタの電話番号は、大阪大学での内線番号です。
メールアドレスは、末尾の"osaka-u.ac.jp"が省略されていますので、送信前に"osaka-u.ac.jp"を付加してください。

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