永友 清和

離散幾何学講座

Nagatomo Kiyokazu

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大規模数理学講座

准教授 永友 清和 Nagatomo Kiyokazu

離散幾何学講座 永友 清和昭和31年(1956年)宮崎県の片田舎に生まれ、昭和54年(1979年)大阪大学理学部数学科を卒業、同修士課程、博士課程を経て現在に至っています。
専門は「共形場理論とその応用」ならびに「微分方程式と保型形式」です。
最近は特にモジュラーなテンソル圏の一般論を共形場理論へ応用することに興味があります。
また、非可換環論との関係を明らかにすることを今後の重要な問題として意識しています。作用素環論の研究者の方々とも共通の話題が生じつつあります。
さらには、楕円曲線上の共形場理論の1点関数のみたす微分方程式を通じての整数論との意外な関係にも大変興味をもっています。

はじめに,修士課程,博士課程における研究指導の方針を述べます。

【研究指導の方針】

1.修士課程

次にあげるキーワードに関する研究課題を学生の皆さんと相談の上で決定して、研究課題の達成に必要な1)文献読解、2)問題の解決の補助、3)論文作成の指導をおこないます。週1回のセミナーでの議論を基本として、必要に応じて研究室での議論もおこないます。

博士課程進学希望者は、日本学術振興会の支援を得るためにできるだけ早い時期に論文を出版する必要があります。発表論文は英語を用いますので、英語による論文作成の指導をおこないます。

キーワード

非可換環の表現論、無限次元リー環の表現論、頂点作用素代数の表現論、共形場理論、フュージョン代数と保型形式、 Verlindeの公式と代数的組み合わせ論、モジュラーなテンソル圏、代数的共形場理論、保型形式と微分方程式

特に非可換環の表現論が重要であると考えています。今後、非可換環の表現論は純粋数学のみならず、数理物理学、暗号理論等に関係する情報科学に関係する数学において重要な役割を果たすものと期待されるからです。そのような兆候はすでに現れています。その1つの例として、非可換環上の対称 2次形式と数理物理学における期待値との密接な関係があげられます。また、ベクトルに値をとる保型形式と微分方程式の関係は整数論と結びつくまだ詳しく研究されていない有望な分野です。個人的にはこの分野に大変興味をもっています。

皆さんの参考のためにセミナーのテキストとして候補となる書籍をあげておきます。

セミナーのテキスト
  1. V. G. Kac, Vertex algebras for beginners, Second Edition, AMS,University course Series Vol. 10, Providence, Rhode Island, 1998または First Edition.(頂点代数と共形代数の基本的な教科書)
  2. B. Bakalov, A. Kirillov, Jr., courses on Tensor Categories and ModularFunctors , University course Series 21, AMS, Providence, RhodeIsland, 2001.(テンソル圏とモジュラー関手の解説-難解です-)
  3. J. Lepowsky, H. Li, Introduction to Vertex Operator Algebras and TheirRepresentations, Progress in Mathematics, Birkauser, Boston, Mass.2004。(頂点作用素代数の最新の教科書)
  4. 土屋昭博述、桑原敏郎記、共形場理論入門、数学メモアール、第4巻、日本数学会、2004年。(土屋昭博氏の京都大学理学研究科における共形場理論の講義録)
  5. 山田泰彦、共形場理論入門、数理物理シリーズ 1、培風館、2006年。(物理学の立場から書かれた共形場理論の良書)
  6. E. Frenkel, D. Ben-Zvi, Vertex Algebras And Algebraic Curves, Secondedition. Mathematical Surveys and Monographs, 88, AmericanMathematical Society, Providence, RI, 2004.( 代数曲線上の頂点代数を論じています。良書ですが、難解です。)

2.博士課程

共形場理論、モジュラーなテンソル圏、保型形式と微分方程式に関連する話題の中から将来性があると考えられるものをいくつか提示し、その中から研究課題を選択します。指導方法は修士課程に準じますが、上記のキーワードに関する論文を解析するセミナーを実施して、修士課程で得た知識を発展させます。また、共同研究を通して、如何にして問題を見つけ、それを解き、論文を書くかを身につけることを目的とします。これにより、独力で論文を仕上げることが可能となれば、指導は成功したものと考えます。博士課程3年次までに論文3編の成果をあげることを目標とします。

英文による論文作成の指導も重要であると考えています。具体的には、原稿を学生の皆さんが書き、それを研究室で添削していくことにより、数学的な問題と英文の訂正を実施します。

【過去の学生のみなさん】

過去、セミナーで修士課程、博士課程を過ごした学生のみなさんは 4名で、うち3名は大学で教育にたずさわる数学の研究者として活躍しています。

以下で研究の経歴について述べます。

【研究の経歴】

現在の研究課題に到達するまでには、紆余曲折がありました。修士論文は相対論的マックスウェル方程式の解をスピノールで表示する公式に関するものです。その内容は方程式の特殊解を代数的に構成するもので、修士課程在学中に完全積分可能系の理論として集中的に研究されていた分野における1つの成果として位置づけることができます。

完全積分可能系の理論は博士課程在学中に佐藤幹夫先生によるKP方程式の理論、情報基礎数学専攻名誉教授の伊達悦朗先生を含む京都スクールによる頂点作用素を用いたソリトン解の記述、アフィンリー環の表現論との深い関係が発表されました。この研究に触発されて、現在「無限次元的な完全積分可能系」とよばれる分野へと研究対象を徐々にシフトしていくことになります。さいわい、修士課程でセミナーで学んでいたHawkingの理論と関係する一般相対性理論における重力場方程式 (アインシュタイン方程式 )の特殊な場合であるエルンスト方程式を佐藤理論の枠内で論じることができることに気づき、その研究を始めることになります。しばらくして、エルンスト方程式の場合に佐藤理論の類似が成り立つことを証明することに成功し、その成果が博士論文となりました。

その後、次の研究対象を求めて長い間、数学の波間をさまようことになります。自分の生涯の研究目的としうる研究対象に到達するのに数年間を要しました-実は最初の年に決まっていたのですが-1991年に名古屋大学の土屋昭博先生が大阪大学理学部数学科で「共形場理論入門」と題する集中講義をされました。この集中講義に出席し、自分の勉強のためにほぼ1年間をついやし、講義において証明抜きで与えられた定理の証明を与えました。これは数理物理学でよく使われる作用素展開の方法を学ぶ機会となり、その後の研究に非常に役立つことになります。もっともこの時点では、そのことを特に意識していたわけはありません。このときに勉強した内容が大阪大学数学講義録の第1巻[4]として1993年に出版されたときたいへんうれしく思いました。研究の転機は1994年の夏からから 1995年の春にかけて、文部省在外研究員として滞在したマサチューセッツ州ケンブリッジにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)において訪れました。およそ 10ヶ月のMIT滞在の間、無限次元リー環論(Kac Moody Liealgebra)の分野における第1人者であるVictor Kac先生の身近で研究することができました。Kac先生が大学院生向けに講義されたのは後にVertex algebras forbeginners[1]としてアメリカ数学会から出版されることになる本の内容でした。この講義は、土屋昭博先生の集中講義とその後に私が身近に感じるようになっていた作用素展開の方法を代数的に整理することから始まりました。すでに作用素展開には慣れ親しんでいたものの、その代数的な扱いに感銘を受けたことを記憶しています。この講義(火、木)の内容を完全に理解しようと残りの滞在期間のすべてを費やすことになります。ボストン滞在は、研究上の新しい成果はなかったものの、新たに取り組む研究対象にたどり着いた大切な10ヶ月でした

帰国後、頂点作用素代数(あるいは頂点代数)に関連する問題を探しましたが、適当な問題が見つからず、なかなか研究成果を挙げることができません。しかし、1年後に再びMITを訪れる機会があり、Kac先生との議論から、頂点作用素代数の自己同型群に関する問題に取り組むことになりました。帰国後すぐにこの問題に取り組むことになります。当然のごとく問題解決の糸口が見つからず、また数ヶ月を費やすことになります。

冬のある土曜日、東京大学数理科学研究科で開催される戸田セミナー10で、私の取り組んでいる問題を解説しました。そのセミナーに参加していた東京大学数理科学研究科准教授の松尾厚さんとの出会いが、現在に至る私の研究方向を決定づけることになりました。松尾厚さんはずいぶん前から頂点作用素代数の研究をされています。しばらくして、松尾厚さんからセミナーで述べた問題が解けたという連絡があり、集中講義のために立教大学理学部を訪れた際に松尾厚さんと議論すると確かに問題は解決されていました。これで、はじめて頂点作用素代数に関わる論文[2]を書くことができました。松尾厚さんとの共同研究はその後も続き、その内容の一部は日本数学会のMemoir No.4[3]として出版されています。

1997年から1998年にかけて、再びアメリカに滞在することになりました。そこで、滞在先として選んだのがカリフォルニア大学サンタクルーズ校11です。モントレー湾を一望するセコイアの木々に囲まれた小高い丘にあるキャンパスで頂点作用素代数の研究の第一人者であるChongying Dong氏と Geoffrey Mason氏との共同研究、特離散幾何学講座も滞在していました。

頂点作用素代数の

共同研究が始まって最初の半年は何の成果も得ることができませんでした。その理由の一部分は、2人の使う記号がことなり、どちらかに統一しなければならなかったこと、また、作用素展開に依存する方法が考えている問題にそぐわなかったからです。しかしながら、4月、長い雨期12が終わるとともに、その間に蓄えていた計算結果が多くの問題に適用されることがわかり、最終的には3編の論文を仕上げることができました。ほとんど成果を得ることなく帰国するという現実を受け入れようとしていた時だけに美しいモントレー湾がさらに美しく見えたことを思い出します。

サンタクルーズからの帰国後、土屋昭博先生に名古屋でお会いしたとき「共形場理論の本を書かれないのですか?」と云ったことがきっかけとなり、執筆のお手伝いを始めることになりました。もう15年以上前のことです。このときにはいわゆるヴィラソロ代数から構成される極小模型の理論の解説をすることが目的でしたが、実際には、極小模型の理論に関してはプレプリントしか存在せず、解説といいながら、実際には研究にかなり近いスタイルでした。この執筆過程の途中2001年からは、一般的な枠内で共形場理論の構成に関する共同研究を本格的に始めることになります。5年を経て、研究成果の第一部が出版されました[5]。この共同研究を通して、多くの数学と数学に取り組む姿勢を学びました。

最近は、ドイツのボンにあるマックス・プランク研究所のディレクターDon Zagier氏13と共同研究を進めています14

また、九州大学数理学府の金子昌信さんとは保型形式、微分方程式と共形場理論の関係に関する共同研究を進めています。具体的には、整数論から導かれた Kaneko-Zagier方程式がトーラス上の共形場理論における 1点関数の構成と関係するという意外な現象を取り扱っています。意外と云えば、制限量子群と結び目の不変量の間にも関係があり、それは早稲田大学理工学術院の村上順さんとの共著の論文[6]で述べてあります。金子昌信さん、村上順さんは大阪大学理学部でのかっての同僚でいつかは共同研究をしたいと考えていましたが、最近になりようやく望みがかない始めています。

Don Zagier, Victor Kacと共にまた、計算機のプログラムにも興味を持っています。最近、滋賀県立大学の谷口義治先生と共著で Mathematica15による線型代数の本[7]を出版しました16。もっとも、プログラミングの指導はできませんのであしからず!

定年退職までもう8年もありませんが、まだまだ、修行の日々がつづく予定です。ともに「数学」を学んで論文を書いてみませんか?


参考文献

  • [1]V. G. Kac, Vertex algebras for beginners, Second Edition, AMS,University course Series Vol. 10, Providence, Rhode Island, 1988またはFirst Edition.
  • [2]A note on free bosonic vertex algebra and its conformal vectors, withA. Matsuo, Journal of Algebra, 212, 365.418(1999)
  • [3]Axioms for vertex algebras and the locality of quantum .elds, with A.Matsuo, Memoirs, Mathematical Society of Japan, 4, 1999.
  • [4]共形場理論入門、土屋昭博述、永友清和記、大阪大学講義録 Vol.1,1993年17
  • [5]Conformal .eld theories associated to regular chiral vertex operatoralgebras I: theories over the projective line, with A. Tsuchiya, DukeMath. J. 128, no. 3, 393.471(2005)
  • [6]Logarithmic knot invariants arising from restricted quantum groups,with J. Murakami, Internat. J. Math. 19, no. 10, 1203.1213(2008)
  • [7]線形代数と Mathematica(共著:谷口義治)、2012年、牧野書店
  • [8]共形場理論、モジュラー関手とモジュラーなテンソル圏、日本数学会、数学 第63巻、第4号、396.420(2011)

  1. 正確には修士課程1年次を終了するまでに出版することが望ましい。
  2. 粒子的に振る舞う孤立波であることに由来しています。
  3. 時空が定常かつ軸対称な場合です。
  4. 当時は文部科学省ではなく文部省でした。
  5. マサチューセッツ工科大学はボストンにあると思われがちですが、実際にはボストンの川向こう(チャールズ川 )のケンブリッジにあります。このケンブリッジも英国のケンブリッジとまぎらわしいですが…
  6. といってもセミナーと講義に出席しただけで、共同研究したわけではありません。
  7. 時間割にTRと書いてあるだけでいつのことやらまったくわかりませんでした。
  8. 残念ながら、英語は全くというほど上達しませんでしたが…。実際Chongying Dong氏にサンタクルーズについたばかりのときどんなに英語が下手だったかと云われました。それでも生活と研究ができるから不思議です。
  9. 数ヶ月ですんで良かったのですが…
  10. 戸田盛和先生の名前を冠しています。
  11. サンフランシスコ空港からCA1号線で海岸沿いに1時間ほど南下したところに位置します。
  12. カリフォルニアには四季がありますが、日本とちがうのは夏は乾季で冬は雨期であることです。夏には草原は黄金色になり、冬には青々と緑がはえます。
  13. 整数論で有名な研究者です。
  14. 外国で研究する時間を与えられているのは大変しあわせなことです。
  15. Don Zagier氏はフリーウェアであるPARIを使っています。MAPLEなど、どの数式処理システムを使うかはなかなか難しい問題です。
  16. 谷口義治先生もかっての同僚です。
  17. 大阪大学大学院理学研究科数学図書室にて入手可能です。

略歴

  • 1983年 大阪大学 理学部 助手
  • 1990年 大阪大学 理学部 講師
  • 1992年 大阪大学 理学部 助教授
  • 2002年 大阪大学大学院 情報科学研究科 助教授

連絡先

4ケタの電話番号は、大阪大学での内線番号です。豊と表記されたものは(市外局番 06)6850、吹と表記されたものは(市外局番 06)6879 に続けてダイアルすることで大阪大学外からもダイアルインでかけることができます。 ただし,吹(内線)と表記されたものは,大代表(06)6879-5111にかけてください
メールアドレスは、末尾の”osaka-u.ac.jp”が省略されていますので、送信前に”osaka-u.ac.jp”を付加してください。

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